アートインタビュー

バレエダンサー ワカコ・イシダさんインタビュー「劇場を飛び出して、そこにしかない景観で踊る」

ダンスカンパニー『NYDC(ニューヨーク・ダンス・クリエイターズ)』ダンサー兼ディレクターのワカコ・イシダさん。大学在籍中ニューヨークにダンス留学をし、そのままプロのダンサーに。現在は東京都台東区にスタジオを構え、ニューヨークで培ったクラシックバレエ、モダンダンス、コンテンポラリー・ダンスの経験を活かし、独自の新しいビジュアルダンスを展開、国内外で公演を行っています。今回はダンスとの出会い、ニューヨークでの経験、そして現在の活動についてお話を伺いました。

5歳の少女が思い描いた夢が形になる

バレエダンサーを目指したのはいつ頃ですか?

「バレエダンサーになりたい!」と漠然と思ったのは5歳の頃。テレビでロシアのバレエ、確か『眠りの森の美女』のパ・ド・ドゥ(主役級の男性と女性ダンサーが2人で踊るクラシックバレエの形式)を観て「絶対にこれになりたい!」と思ったのが始まりです。

すぐにバレエ教室に入りピアノも始めました。その後いろいろなバレエを観たり、クラシックのコンサートに行ったり。そして中学生のときミュージカル『ウエスト・サイド・ストーリー』を観て「絶対にニューヨークに行く!」と漠然と夢を持ち、とりあえず英語を勉強しなくちゃと思いました。

大学では英文学を専攻しました。その頃、ピナ・バウシュの率いるヴッパタール舞踊団の公演を観ました。バレエと演劇とモダンダンスを組み合わせたような、今まで観たことのない衝撃的な舞台で、本質をさらけ出すようなダンサーたちの大胆な表現に圧倒されました。身体表現者として必要なモダンダンスも身につけ(今でいうコンテンポラリー・ダンス)、自分の身体を使って世界の人たちと心の交流ができるようなそんな表現者になりたい、そして人を感動させるような素晴らしい作品を作りたいと強く思いました。

目を閉じたまま踊ったり、シューズを脱いで裸足になったり

ニューヨークを拠点に活動し始めたのはいつ頃ですか?

大学在学中ニューヨークのダンススクールに留学しました。
2ヶ月ほどしてニューヨークのダンスカンパニーのオーディションに合格し、プロのダンサーとしてデビューしました。

ニューヨーク出身のディレクターのもと所属するダンサーは、アメリカ人はもちろんイタリア、オーストラリア、デンマーク、ジャマイカ、アルゼンチンなど、多種多様なカルチャーのバックグラウンドを持つメンバーで構成されていました。

それまで音楽に合わせて綺麗に踊ること以外やってこなかった私にとって、毎日驚くことばかりでした。
音楽をわざと外して踊ったり、目を閉じたまま踊ったり、石造りの階段を転げ落ちたり、女の子が女の子をリフトしたり(通常は男性が女性を持ち上げるバレエの技)、シューズを脱いで裸足になったり。劇場を飛び出して、野外や遺跡、そこにしかない景観で踊ったり。
初めての体験ばかりでしたが、これがまさに私のやりたいことでした。

その後、帰国し大学を卒業しましたが、このダンスカンパニーには10年ほど在籍し、全米をはじめイタリア、フランス、カナダなど世界各国での公演に参加しました。

ニューヨークのダンススクールではバレエ、コンテンポラリー・ダンス、振り付けなどダンサーに必要なさまざまなレッスンがあり、世界中から集まったダンサーたちと切磋琢磨しながらレッスンとリハーサルの毎日でした。また、厳しいレッスンで有名なロシアのワガノワ・メソッドの先生のもとで、クラシックの厳格な様式を基礎から学びました。

クラシックのバレエ団にも一時所属していました。『シンデレラ』や『くるみ割り人形』『白鳥の湖』『雪の女王』などの全幕公演にソリストとして参加することもあり、振り付けを任されたこともありました。
またそれらのカンパニーで踊るかたわら、数々のダンスカンパニーの作品にゲストダンサーとして参加しました。

ダンスの本場ニューヨークで古典から最先端まで、さまざまなジャンルの公演に関われたのはとても素晴らしい経験でした。

特に印象に残っている公演はありますか?

メキシコのスペイン統治時代に建てられた教会の遺跡での公演です。嵐の中、天井もない舞台に雨が激しく降り注ぎ、雷鳴とどろく中びしょ濡れになりながらも、マヤ語で「水」というダンスを踊ったとき、神が降りたような気がしました(笑) 

NYDCのトロント公演では、真っ暗な劇場で観客がどれくらいいるのかもわからないままダンスが終了。一瞬観客席がシーンと静まり返ったあと、ものすごい歓声が聞こえ、再び明かりがついてカーテンコールで舞台に出ていくと、観客が総立ちになって迎えてくれたました。

数年前の1月、東京銀座の画廊でNYDCの回顧展で行ったオープニングパフォーマンスもとても印象的です。何十年ぶりかの積雪で地下鉄が止まり、ほんのわずかな観客を迎えてのダンスでした。室内で始まり、雪の降りしきるバルコニーへ移動し、ビルの谷間の小さな四角い銀座の空から降り注ぐ雪を全身で受け止めて踊った夜は、忘れられない公演になりました。

今までだれも観たことがない舞台を作って世界で踊りたい

NYDCについて教えてください。

『NYDC(ニューヨーク・ダンス・クリエイターズ)』は1999年に、もともとダンススクールのクラスメイトであり、お互いに別々のカンパニーで活動していたカセイ・イノウエと、数人のニューヨークのダンサーたちと一緒に立ち上げました。

「いろいろなダンスが踊りたい」と同時に「自分でも作品を作りたい!」という思いがあり、カセイ・イノウエとは「今までだれも観たことがないような舞台を作って、世界で踊りたい!」と意気投合しました。

さまざまな人種のダンサーたちと、いろいろな意見を出し合いながら作品を作り上げていく過程は、本当に刺激的です

2009年に東京都台東区のスタジオをオープンし、世界に新しいダンスを発信する拠点として、国内外で公演を行っています。
昨年はスイスの都市バーゼルに招かれ公演を行いました。現地テレビでその模様が放映され好評を博しました。

台東区のスタジオではバレエスクールもやっています。ニューヨークで培ったバレエ、コンテンポラリー・ダンスのテクニックと表現を伝え、次世代の育成にも努め、技術のみならず世界に羽ばたく表現者としての情操を育てるために日々奮闘しています。

バレエスクールの発表会では、毎年全幕でバレエ作品を上演していて、本物の舞台を参加者全員で作りあげています。昨年は3歳の子供から大人まで、全員の力を合わせて『白鳥の湖』を上演しました。

今後挑戦したい事はありますか?

人の心を動かす作品を作りたいです。

ずっと踊ってばかりいる人生だったので、大好きなアートとの時間を増やしたいです。世界の美術館やギャラリー巡りをやってみたい。建築も。また、現代美術も大好きなので、アートディーラーになって、アーティストを発掘して育ててみたいです。ニューヨークではコマーシャルギャラリーでアシスタントもしていたんです。(当時はダンスのことばっかり考えていて、あまり役に立たなかったとは思いますが。。。すみません。。。)

また、最近電子版の絵本を出版しました。

おはなしおんがくえほん『泣き虫ポロロ』というもので、奇想天外なストーリーに、美しい極彩色の絵、感動的な書き下ろしの音楽が流れる、音楽のお話です。絵はニューヨークのパーソンズ美術大学でグラフィックデザインを学んだカセイ・イノウエが担当しています。
おはなしおんがくえほん『泣き虫ポロロ』
www.music-storybook.com

バレエも、絵も音楽も、文学も、すべてに共通するテーマなので、この絵本を題材しにてバレエを作りたいです。現在スクールに通う子供たちにも踊ってもらい世界を公演旅行して、世界中の人々と交流したいと思っています!

あと、全然関係ないのですが、、、サーフィンをやりたいです(笑)



※今回は新型コロナウイルス感染拡大防止のためメールでインタビューにお答えいただきました。ありがとうございました。

ワカコ・イシダ/バレエダンサー

幼少よりバレエを始める。青山学院大学在学中よりニューヨークに留学。卒業後、ニューヨークを拠点にプロのバレエダンサーとして活動をはじめる。『NYDC』のカンパニー・ディレクターとして、クラシックバレエのテクニックをもとに様々な身体の可能性を追求しながら、独自のビジュアル・ダンスワールドを展開している。リーボック・ジャパンとのコラボレーションによるダンスカジュアルのブランド『NYDC』をプロデュース。2008年度より「うつくしま、ふくしま。全国洋舞コンクール」審査委員を務める。

NYDC(ニューヨーク・ダンス・クリエイターズ)
http://www.nydcreators.org

アンテナ編集部

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