アートインタビュー

イラストレーター くぼあやこさんインタビュー「仕事をすることでしか鍛えられない筋力」

雑誌、書籍、絵本、広告などで活躍しているイラストレーターのくぼあやこさん。二児の母でもあるくぼさん、育児の何気ない1コマを描いた「育児百景」シリーズはSNSで多くの共感を呼んでいます。今回はくぼさんにお仕事について、そして子育てについてお話を伺いました。

くぼさんのお仕事を教えてください。

イラストレーターをしています。
雑誌や書籍、広告などクライアントによってさまざまな仕事をしています。

最近の仕事だと、
雑誌『暮しの手帖』の「アウトドアグッズで揃える わが家の防災リュック」という企画で、実際に私の家の防災リュックをアウトドアの専門家の方と見直し、それをイラストに描き起こしました。

『暮しの手帖』第5世紀7号「アウトドアグッズで揃える わが家の防災リュック」(AD:宮古美智代)

他には『ほぼ日刊イトイ新聞』岸田奈美さんの連載「いなくならない父のこと。」のイラストを描いています。

あと『kodomoe web』という子育て雑誌のweb版で「くぼあやこの生活雑記」という子育て漫画の連載もしています。

「いなくならない父のこと。」
(Webサイト ほぼ日刊イトイ新聞にて不定期連載中)

イラストレーターを目指したのはいつ頃ですか?

目指していなかった、と思います。
正確には「イラストレーターでごはんが食べれるわけがない。活躍できるのはほんの一握り」と思い込んでいました。

美大や専門学校でイラストレーションの授業はとっていましたが、その頃はデザイナーを目指していました。

小さいころから絵を描くことが好きだったんですか?

はい、子どもの頃から絵を描くのが好きでした。朝起きると新聞に挟んである裏が白いチラシを探して、絵を描くのが日課でした。
なので自然と美大に進みましたが、田舎だったのでデッサンを学べる場所が無く、デッサン無しで入試できるコースにしました。

美大を出てからは一般職に就きました。 派遣の事務職でしたが、その時期はなにをするにも自信がなく、このままで良いのだろうか…と悶々としていました。

ある日ハリー・ポッターのDVDの注文を入力しながら(入力作業の仕事でした)
「このままここで3年働くのなら、3年捨ててもいいのでもう一度美術の勉強をしよう」と思い立ち専門学校の進学を決めました。

専門学校在学中にボローニャ国際絵本原画展で入選し、その後イラストレーションの仕事をいただくようになり今に至るという感じです。
イラストレーターとして駆け出しの頃も、手元の仕事が途切れたら、デザイナーとして就職活動しようと思っていました。
それくらい仕事として成立するのか不安がありました。

ボローニャ国際絵本原画展 入選作品
「LE RAT VILLE et LE RAT DES CHAMPS(田舎のネズミと町のネズミ)」

お仕事の依頼を受けてから作品が出来るまでの工程を教えてください。

私の仕事の工程は、仕事をいただいて一週間後にラフを提出。その後、修正ややり取りを重ねてさらに一週間後に本描きを渡す。というスケジュールが多いです。
だいたいラフから完成まで3週間くらいかかります。
中にはタイトな仕事もありますが、だいたいこのパターンです。

仕事の依頼メールの段階でイメージが浮かぶものもあれば、ウンウン考えてやっとひねり出すものもあります。

ラフがうまくいった仕事は本番もうまくいくイメージです。
ラフで描きすぎると、本番の楽しみが減るので、描きすぎず、キモは押さえてラフを仕上げるのが自分の中で目標になっています。

作品を作る上で気をつけている事、意識している事はありますか?

相手が何を求めているのかは、打ち合わせやメールの文面で探ります。
その上で、自分のスタイルをどう押し出すか、を考えながら画を決めます。

最近よく思うのは「仕事をすることでしか鍛えられない筋力」というものがあり、10年以上イラストレーターをしていくなかで、ずいぶん鍛えてもらいました。

「仕事をすることでしか鍛えられない筋力」とは?

「仕事をすることでしか鍛えられない筋力」というのは、簡単にいうとイラストレーション力(りょく)というものかなと考えています。
イラストレーションは絵が写実的にうまければ成立するものでは無く、そこになんらかの情報を含みます。
そして、一枚で画面をキメる力のある画が、イラストレーション力のある画かなと思っています。(私の解釈ですが)

複数のお仕事を同時進行することもあるんですか?

仕事はいつも10件前後を抱えている感じです。
スケジュールをなるべくバラしてもらいますが、急な修正や追加などで
スケジュールが重なることも多く、その急な依頼の想定もなんとなくしつつ、仕事をしています。

担当の方の名前がごっちゃになったり、作業に熱中してZoom会議の時間を忘れたり混乱することも多々あります(笑)

複数の仕事を掛け持ちする上で、どうやって気持ちを切り替えていますか?

切り替え方は教えて欲しいくらいです(笑)

仕事、家、子供(保育園)、夫の予定を把握していなければならず、
いつもキャパオーバーでフル回転の状態です。

特に印象に残っているお仕事があれば教えてください。

「築地食べる通信」の仕事は印象に残っています。タブロイド型の雑誌の表紙を3年ほど描きました。

最初に「鶏」の絵を描いて、何人かのイラストレーターで競うというコンペ形式の仕事でした。
そこで選ばれれば、仕事として毎月描くことになります。

コンペの前段階で、「わたしはあまり期待されてないかも…」という感触がありました。
第一候補では無さそう。ここで挽回するには…と数日悩みながら鶏の絵を仕上げました。
若冲の鶏の絵を参考に、七転八倒して描いた絵は「よくできたぞ!」と自分でも納得できるものでした。

その仕事が決まったことも嬉しかったのですが、「鶏」の絵がよく描けたことのほうが嬉しかったかもしれません。

「築地食べる通信」2015年5月号 5月表紙

インスタグラム拝見しました。「育児百景」とっても素敵ですね!始められたきっかけは?

「育児百景」をはじめたきっかけは、いろいろあります。
まずはこの時期の子供と私の風景を切り取って残しておきたいという気持ち。

もうひとつはイラストレーターとして活動してきて、はじめて産休で長期間休んだので焦りがありました。
今まではクレヨン画を中心に描いていたけれど、子供がグズったときにすぐに抱っこできるよう、鉛筆画に切り替えました。

SNSで発表すると思わぬ反響があり、描いては投稿する日々が子育て中の癒しになりました。
仕事とも違う、好きなものを描いて喜んでもらえるのは面白くて続けています。

お仕事と育児を両立させるためのコツはありますか?

子育てと仕事を両方やると決めたからには「頼る」が一番です。
例えばウチの場合、3歳と1歳の姉妹がいますが、平日は2人とも保育園に預けています。
保育園のサポートがなければ、到底仕事はできないです。(今回のコロナで思い知りました。)

それと義実家の家族、さらにはベビーシッターさん、この頼るべき三本柱があるので何とかやっています。

そして土日は全く仕事をしません。メールも見ません。
というかできないので、土日は仕事のことは忘れて子供たちと過ごしています。

ひとりで背負い込もうとすると必ず潰れます。
体ならまだしも、心が潰れては回復に時間がかかってしまうので
慎重に自分の状態を見て、少しでも無理が出そうなときは三本柱に頼ります。

現在のコロナ禍において、仕事の変化があれば教えてください。

イラストレーターはもともと在宅の仕事なので、仕事の環境的には何も変わっていません。

ただ緊急事態宣言中は保育園がお休みだったため、子供2人を見ながら在宅で仕事をするのは至難の業でした。
仕事は最低限に絞り、夫と時間を半分に分けて子守をするも、途中でグズる声が聞こえると気になってしまう。
ストレスフルでがんばっていましたが、途中からベビーシッターさんにお願いしました。

ベビーシッターさんがはじめてくる日は、やっと息ができると思ったほど安心しました。

今後挑戦したい事がありましたら教えてください。

落ち着いたら、漫画を描きたいと思っています。
連載では描いているのですが、もう少し自分の描きたいものを思いのままに描いてみたいです。


※今回は新型コロナウイルス感染拡大防止のためメールでインタビューにお答えいただきました。
お忙しい中、ご対応いただきありがとうございました!

くぼあやこ/イラストレーター

女子美術短期大学卒
阿佐ヶ谷美術専門学校卒
ボローニャ国際絵本原画展入選を期にイラストレーターとして活動中

http://www.kuboayako.com/

書籍
「育児百景 Slice of Life」(KADOKAWA)

Instagram
https://www.instagram.com/kuboayako/

アンテナ編集部

ベストプリントに関する情報や印刷物の作成に役立つ情報をご紹介いたします。
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