インタビュー

イラストレーター柳智之さんインタビュー「絵のことは追い続けても追いつかない」

柳さんはどのような制作活動をされていますか?

絵を描いています。

イラストレーションの媒体はいろいろですが、比較的書籍関係が多いです。

 

『文學界』2021年4月号(文藝春秋) 表紙

 

 

 

リクルートワークス研究所『Works』第163号(2020年12月発行) 表紙

イラストレーターを目指したのはいつ頃ですか?

18歳頃です。

ハッキリとしたきっかけという訳ではありませんが、最初にそのことについて考えた場所と時間は覚えています。

夜、ガラガラの井の頭線に乗っているとき、窓の外を見ていてふと思いついて想像を巡らせました。

『週刊新潮』五木寛之「生き抜くヒント」 挿絵

ー作品を作る上で気をつけけていること、意識していることはありますか?

イラストレーションの仕事でどのような絵を描くか考える際、その絵を本当に描きたいかどうかを意識しています。

依頼の内容にうまく答えれば万事OKではなくて、こちらの興も乗っていなければならないと思います。そうでなければ意味だけがあって魅力のないイラストレーションになってしまいます。

と、ここまで描いて「意味しかないイラストレーションとは何か?」と想像し、それはそれで面白いなと思い直しました。
イケアの家具の作り方の説明図などはどうでしょうか?あれはあれでなんだか魅力的にも思えます。

絵のことは追い続けても追いつかない、それで良い気がします。

『敗北への凱旋』連城三紀彦(東京創元社) 装画

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特に印象に残っている作品があれば教えてください。

仕事になるとだいたい七転八倒している気がします。いろいろ考えた末に非常に安産だったある仕事があります。

三重県にある「三井アウトレットパーク ジャズドリーム長島」に飾る絵を描く仕事でした。モノクロでジャズをイメージして描いてほしいという依頼だったのですが、モノクロもジャズも好きなので非常に幸福な気持ちでした。

意識したのは「遠景でも近景でも映える」ことです。

「遠景での映え」とは、全体を俯瞰したときのグレースケールの印象が良くなることでした。
そのためにそれぞれの絵の印象を白い絵、黒い絵、暗めのグレーの絵、明るめのグレーの絵などに分類してちょうどいいバランスになるように計画しました。またモチーフのバランスももちろん考えます。(バンジョーの絵ばかり描いていても当然ダメなわけです。)

「近景での映え」はタッチの違いなどを楽しんでもらえればと思いました。
タッチは絞った方がいいのか迷いどころでしたが途中で退屈してしまいそうだったので(描く側も見る側も、特にリピーターの方に)自由に描く方を選択しました。

自由と言いつつ、全体のバランスを確認しながらギリギリのところで統一感を崩さないように心がけました。

ジャズの時代感について、ロバート・グラスパーやカマシ・ワシントン以降のいわゆる現代ジャズは非常に好きなのですが、視覚情報的には少しボケてしまう可能性があるのでモダンジャズあたりまでをイメージしました。

重要なことですが、それがクライアントの意向に沿うかどうかわかりません。ですから早めの段階(ラフ提出の段階)で本番の絵を半分ほど用意してこちらのイメージが伝わるレベルで説明させていただきました。

問題なく進めたのでそのまま完成へ進みました。

バンド活動をされていたと拝見しました。バンド活動とイラストレーターの道がある中でイラストレーターを選んだ決め手を教えてください。

ceroですね。

ceroを始めた当初(2004年頃)、全員いわゆる「完全プロ志向」的な発想を持ち合わせていませんでした。

ただ、始めてみたらceroの尋常ではないアイデアと試行への欲求に飲み込まれ、永遠のカタルシス状態へ突入してしまったわけです。

イラストレーターになることを意識したのは結成と大体同じ時期です。2008年に学校を卒業してからイラストレーターの仕事を徐々に始めたので、そこから2011年までは(バンド活動とイラストレーター業が)被っています。

コンピレーション・デモ音源集『crowd』 ジャケット(配信)

なぜイラストレーターにしぼったかというと、「個人的な理由」と「個人的なバンド的理由」の2つのがあります。その頃、ceroが忙しくなる兆しが見えました。当然、今後のことを考えます。

「個人的な理由」とは僕の中心が絵だということです。これは決してかっこいい話じゃなくて、生まれつきの性質みたいなものです。例えばどんなに楽しい旅行に出かけても3日描かないでいると結構きつい、そういう話です。

「個人的なバンド的理由」はまず、ceroの3人全員がプレイヤーでありながらコンポーザー、プロデューサーでもあります。一方、僕は純粋なプレイヤー(ドラム)で、二足のわらじ精神では進化する理想に追いつけなくなる可能性を感じていました。リズムの枠を僕で固定しないで自由に空けておいた方がいい気がしたんです。

延命のために片腕を落とすような決断だったので悩みましたが、現在のceroと自分の状況を見ると正しい判断だったと思います

表現の方法は分かれましたが、常々刺激をもらっている信頼の置ける友人たちです。

今も音楽との関わりは深いのでしょうか?

現在、音楽活動はしていません。食後に箸でポリリズムの研究をしているくらいです。
冗談です。していません(笑)

音楽との関わりですが、イラストレーターとして関わることはそこそこあります。音楽に携わる仕事だと無理してでも引き受けてしまう傾向があるので比較的多めになるかもしれません。

『ミュージック・マガジン』2021年5月号 表紙

「こんな仕事をしたい」などあれば教えてください。

どうしてもタイトなスケジュールで進めがちですが、長期的に1つに集中できるような仕事には少し憧れます。無い物ねだりです。

現在のコロナ禍において、活動の変化があれば教えてください。

クライアントの方で影響がありスケジュールが変化することはありますが、個人的な作業内容についてコロナの影響はありません。家と仕事場を往復する毎日です。

今後挑戦したいことはありますか?

絵だけで四苦八苦していますが、物語に触れたい欲はあります。

 


柳智之/イラストレーター

1984年生まれ。
08年桑沢デザイン研究所卒業。
卒業と同時にフリーとして活動を始める。
08年桑沢最優秀新人賞。
10年HBファイルコンペ鈴木成一賞。

ベストプリントスタッフ

ベストプリントスタッフ。印刷やデザインについて役に立つ情報をご紹介していければと思っています!
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